日本の医療制度をベースにテーラーメイド医療を実現する
●事業計画実現のためにアメリカの医療を受けた経営者
——徳田さんは、中小企業を中心として10,000社が加盟している日本経営者同友会の代表理事として、たくさんの経営者の方と交流があると思います。経営者の方々の健康や医療に対する関心は、いかがでしょうか。
徳田瞳(以下徳田):中小企業の経営者の方を見ていると、かなりのストレスを抱えながら日々経営の舵をとってらっしゃいます。中小企業の社長さんは当然のことながら社員の生活が全て自分の双肩にかかっているという意識が高く、病で倒れることを大変に恐れています。中小企業のトップの病気は会社の金融、財務の問題に直結します。重い病気になると銀行は貸し付けもしてくれません。
ある経営者の方は、肝臓が殆ど機能しなくなってしまい、死を待つしかない状況に陥りました。その方は主治医の先生に「今取り組んでいる事業計画を達成するためにあと2年、命を延ばしてください」とお願いをしたそうです。延命のためには臓器移植しかなかったのですが、日本ではドナーは2親等までしか認められないということで、結局アメリカでの医療を受けたとのことです。手術費用やご家族の滞在費など大変な負担だったと思いますが、社員の生活を考えてそのような決断をされたのだと思います。
一般的に経営者の皆さんがきちんとした健康管理をしておられるかというと、必ずしもそうだとは言えません。確かに健康に対する関心は高いですね。特に年配の男性の方はビジネス以外の話題と言えば健康の話が多いですね。ただそれは漠然とお酒を控えようとか、メタボに気をつけようとか、この病気にはあのサプリメントが効くよなどのお話です。自分の身体をしっかり医学的に捉えて健康管理している方は少ないのではないでしょうか。
●「気をつけたほうがいいですね」からいかに「実際に気をつける」に繋げるか
外山雅章(以下外山):経営者の方はみなさん大変多忙でいらして、日々大変プレッシャーを受けていらっしゃると思います。そういった中では、なかなか健康管理が十分行き届かなないのも分かります。 企業の方がやられている健康管理は、年1回の定期健診がベースになっていると思います。経営者の方では人間ドックに毎年入っているかもしれません。私もドックについてはいろいろ関わってきました。 ドックでは受けた方の健康状態の90%を把握できます。しかし100%ではありません。残り10%で見逃す部分があるんです。問題はちょっと気になるデータがあった時、そこから先の専門的な検査になかなか行かないことなんです。 |
たとえば、5年間同じ病院でドックを受けていれば、5年間のデータがたまります。そこで仮に3年前と比べて20%コレストロールが上がっていたら、その医師は「気をつけたほうがいいですね。」って言うでしょう。しかし本人は気にはするけれども、専門医に行くわけではないと思います。
そこで専門医に行き、専門医から「悪玉コレストロールを下げたほうがいい」と診断が出て、薬が処方されてはじめて薬を飲むことになる。この「気をつけたほうがいいですね」から専門医にまで繋がっていかないのが問題なのです。今は専門家に行かないがために、命を縮めるようなことが起きているのが現状です。
私がチーム外山プロジェクトを立ち上げた理由は、ここにあります。通常の保険制度のなかで受けられる医療を最大限享受しながら、そこで足りない部分を補い、オーダーメイド、テーラーメイド医療に近い医療を提供する。一人ひとりの健康管理の精度を上げ、医療の質を上げていきたいと考えています。
一方で健康への関心の高まりから、サプリメントや漢方薬などを飲まれている方もいらっしゃるでしょう。
医師の中には「そんなもの飲んでも仕方がない」と簡単にいう人もいます。しかしそうでもないこともある。私自身は、サプリメントを飲んでいる人、漢方薬を飲んでいる人をそのまま受け入れて、治療設計を考えるべきだと思いますし、そうしています。
●医療の質は医師のテクニカルな技量だけで決まるのではない
外山:最近はどの分野でもバリュー、バリューと言われています。医療のバリューとは何かと考えた時に、健康の価値を患者さんが受け取ることだと私は考えます。良い手術をしても、その後のフォローがしっかりできていないと、10年20年も元気で過ごせない。医療が優れていたという判断にはならないと考えています。そこには医師だけではなく、看護師をはじめ、医療関係者の一つのチームが一体となって、患者さんのありのままを受け入れながら、健康という価値を提供していく、もっと包括的なものなのです。
そこにおいての医師の質は、テクニカルに優れているというだけでなく、親しみやすさであったり、判断が明確であったり、熱心さであったり、思いやりがあるなどパーソナリティが関わってきます。
徳田:昔はお医者さまと言えば、患者にとっては畏れ多くて近寄り難い雲の上の存在のようでした。今はセカンドオピニオンの概念も浸透してきたりと、そういった感覚は少なくなったとは思いますが、それでも何か下手なことを言ったら嫌われるのではないかと不安にさせるお医者様もいます。
寡黙で、睨みをきかせているような…でもよくよく知ると、ぶっきらぼうだけど、誠実な先生だったというケースもありますし、相性のようなものもあるのかもしれません。医療の現場では患者さんがお医者さまを選ぶことは難しいですし、お医者さまとのコミュニケーションがうまく取れないことは患者さんにとっては大きなプレッシャーになります。
外山:私は日本の医学部を卒業してから、その後の医師教育はアメリカで受けました。アメリカの医療社会では、医師はまず患者さんと握手をして接近することから始まります。寡黙であまりしゃべらないという先生は、見たことがありません。ところが日本では、そういう医師が結構の数、見受けられ「あの先生は無口な方だから」でそれをゆるしてしまっています。
私は長く専門医教育に携わってきましたが患者さんには十分説明し、自分から答えられないことは有耶無耶にせず上司と相談してから話をするように指導してきました。
徳田:お医者さまが積極的に、そのようなオープンマインドの姿勢で患者さんを受け入れてくださると、日本の医療ももっと素晴らしいものになっていくと思います。
●患者さんとの雑談が提供してくれるもの
――一方で患者さんと向き合おうとすると、診察、治療に時間がかかります。よく3時間待って3分の診察など言われます。
外山:待ち時間の問題はずいぶん改善されてきていると思います。一つは予約制度を取り入れてきているからです。ただ、10時半に予約を入れたから、10時半にぴったりとはいきません。医師の側からすれば、誰だってじっくり診たいと思っています。患者さんは不安だから症状に関係ないいろいろな雑談をしてきます。でもその雑談からはいろんなことが分かるのです。「この患者さんは10年前に手術して、その後の生活などを話してくれている。でもどうも一般的な術後経過と違うようだ」とか、治療のヒントになるようなことが分かってくるのです。ただそこには医療経済の問題などがあって、なかなか時間が取れない。医師の努力だけではなかなか解決できない面があるのです。
徳田:今の保険制度の中では検査や投薬は点数対象になっていますが、これに加え、お医者さまの問診や説明行為も制度化して点数化できないのでしょうか。そうすれば、先生方もより丁寧にお話いただけ、「医者と患者との信頼関係」を築くためにも大切なことだと思います。
患者側から見ますと、設備の整った大病院では特に、待ち時間の問題があります。診察の待ち時間もそうですが、診察後がまた長いですね。会計を済ませてお薬をいただくまで2時間以上もかかる場合もあります。付き添いの方がいらっしゃればいいのですが、具合が悪いのにずっとため息をつきながら待ってらっしゃる方を見かけると心が痛みます。もっとシステムを改良してなんとかならないかと思ってしまいます。
外山:今おっしゃられたことは実際そうだと思います。我々はコストに反映される、されないで日常診断を行っている訳ではありません。ただ医療コストとして認めてもらうようになれば、そこはインセンティブとして働くと思います。説明をどうするかというのは患者さんに与える我々の大きな価値の1つだと考えています。無言のうちに日本の医療の質を高めることに繋がるかもしれません。
それから、診察後の待ち時間についても各医療機関の努力でずいぶん改善されてきています。薬については一部の病院では、薬を送るという制度も行なっています。私がいる亀田総合病院でも一定の基準を設けて薬を送るということはやっています。
徳田:それは心強いですね。そういった患者さんのメリットになるシステムがもっと広がっていって欲しいですね。
外山:私もそう願っています。ただ今のところそういう取り組みができるところは限られています。私がチーム外山プロジェクトを立ち上げるきっかけのひとつとなったのが、この診療時間の問題でした。できるだけ時間をかけて患者さんをじっくり診たいと思ったのです。会員の方は、私が面談をし、問診票や過去の健康診断結果など分析し、健康で長寿を保つためのアドバイスを行います。気になることがあれば、私が直接面談して、信頼を置くその分野の優れた医師や技師を紹介し、最もふさわしいベストな医療を提供してもらうのです。
また医師の紹介も、もちろんただ紹介するのではなく、患者さんの状況に応じて付き添いも行います。またその先生にはすでに、私のほうから詳しい状況を伝えてありますから、極めてスムーズに診断治療が行えるのです。
会員を待たせない。診断や問診には十分な時間をかけるというのがチーム外山の特長です。
救急車を呼ばないまでも、体調が非常に優れないような時には、私どもと提携している救急病院のERチームとも24時間態勢で対応しております。
●専門家である医師が、どの医師を選んだらいいか、アドバイスしてくれるといい
――質の高い医療を選ぶということは、経営者の方に限らず、すべての人が求めていることだと思いますが、経営者の方は、どのような観点で選んでいらっしゃるのでしょうか。
徳田:このところ数人の友人ががんになり「どこか良い病院、先生を知りませんか?」という相談を受けました。がんと言えば「某がんセンター」が良いのではないかと考えたのですが、ご家族の方が通うことも考え併せると、むしろ彼らの生活圏内にある病院、そして一番臨床例を持っている病院が良いのではないかと思い、アドバイスさせていただいたことがあります。ただ臨床例の多さがイコール良い病院なのかというと不安がありますが。 がんに限らず、重い病気が発症した場合、どの病院に行くべきか、何を持って選定の基準とするか、治療のためにどういうアプローチがあるのかなど、私たち素人には分かりません。そのような時に専門の先生からアドバイスをいただけたら非常に心強いと思っています。 |
徳田:このところ数人の友人ががんになり「どこか良い病院、先生を知りませんか?」という相談を受けました。がんと言えば「某がんセンター」が良いのではないかと考えたのですが、ご家族の方が通うことも考え併せると、むしろ彼らの生活圏内にある病院、そして一番臨床例を持っている病院が良いのではないかと思い、アドバイスさせていただいたことがあります。ただ臨床例の多さがイコール良い病院なのかというと不安がありますが。
がんに限らず、重い病気が発症した場合、どの病院に行くべきか、何を持って選定の基準とするか、治療のためにどういうアプローチがあるのかなど、私たち素人には分かりません。そのような時に専門の先生からアドバイスをいただけたら非常に心強いと思っています。
外山:そうだと思います。よく雑誌やインターネットでは名医ランキングなどがありますが、あれが必ずしも医師の質を表しているとは限りません。また病院が有名でも、担当する医師の技術が優れているとも限りませんし、医師の質を問う場合、それは単にテクニカルな面だけでないことは、お話しした通りです。
たとえば肝臓病を例にとれば、C型肝炎と言っても患者さんよってまったく違う。あなたのC型肝炎はこういうふうにアプローチしましょうと、その患者さんの状況を見て、治療のスキームを当てはめて、デザインを考えるわけです。
●テーラーメイド医療の切り札、ゲノム遺伝子診断
徳田:一人ひとりに合ったテーラーメイドの医療にゲノム遺伝子診断というのはどう関わって来るのでしょうか。
先ほどお話しした、アメリカでの医療を受けられた方のように、経営者の方は寿命という観点からみて、今は自分の人生のどのあたりにいるかということをすごく気にしていらっしゃいます。経営者は事業計画や経営スケジュールを組み立ていかなければなりませんから、ゲノム遺伝子診断で自分自身の将来の病気を予知できれば、経営のリスクを小さくすることもできるわけです。
もし2年後、がんの発生率が高まると予知できれば、病を回避するためにはどういった生活をすれば良いか、事業計画の実現のためにはどのような対応をしたら良いかなど、対策ができると思えるのですが。
外山:私はゲノムドクターの資格を持っていますが、おっしゃるようにゲノム遺伝子診断は、テーラーメイド医療を実現していく上で非常に重要な役割を担ってくると思います。
たとえば三大疾病の一つであるがんは、昔に比べて治る病気になってきました。早期発見ができれば、かなりのところまで良くなっています。ただ100%ではありません。
肺に米粒大のがんが見つかった。ではそれを取れば100%大丈夫とまでは全く行っていません。そうすると少しでも、がん死亡を減少させるには、米粒大にならないようにするところにかかってくる。がんになる前の状態をどうやって知るか、ということです。ゲノム遺伝子診断はそこで非常に大きな効果を発揮するのです。がんに限らず、大きな病気の予防に役立つと考えています。
チーム外山プロジェクトでは、ゲノム遺伝子診断も提供しています。
発現解析・体質検査・がん遺伝子検診などを通じて将来における発病リスクを判断し、さまざまな対策を講じることが可能になるのです。検査は血液採取で行いますが、採取量は2.5CCとわずかです。時間も1分もかかりません。予防医学という見地からも、お勧めしたい検査です。
●経営者のみなさんに自信と活力を与える「チーム外山プロジェクト」
徳田:最先端医療で言いますと、がんなどでは重粒子線治療などいろいろ出ているようですが、すぐに受けられるものなのでしょうか。
外山:私はがんの専門医ではないので、詳しいお話はできませんが、医師としてのスタンスは一緒です。がんは薬物治療、放射線治療、手術の3つの基本治療があります。まずはここから入ります。それでもできないとなった時に重粒子線治療や陽子線治療、がん免疫療法(ペプチドワクチン療法など)などが入ってきます。
これらは今のところどの病院、どの医師も100%のエビデンスを持っているわけではないのです。
確かに効果がはっきり出たケースも多くありますから、よく勉強されている、がん専門医であればこれらの治療法についても十分に説明してくれる筈です。それは大切なことだと思っています。
重粒子線治療や陽子線治療がどの患者さんにも効くとは限らないですし、標準治療を超えた部分での治療ですので、病院が適切な施設を紹介してくれるとは限りません。
施設側にもビジョンがあるので、その判断は難しいと思います。チーム外山ではこうした最先端治療についても、ご紹介、ケアできる体制を整えていきます。
徳田:ゲノム診断でいろいろなことが予知でき、適切な健康管理ができる。そして何より発症した時にはメンタルな面も含めて十分にケアしていただける外山先生の医療チーム「チーム外山プロジェクト」は、今の日本の医療において一つの理想形だと思います。会員になることで健康管理の精度が上がるだけでなく、健康への意識も高まります。それにこれほどフォローアップしていただければ、経営者の皆さんの大きな自信にも繋がると思います。新しい事業にチャレンジしていく活力にもなる気がしています。
本当はこうした医療サービスを国民みんなが受けられる社会になってほしいと思いますが、まずはモデルケースとして、外山先生がこれからチャレンジなさるということに期待したいと思います。ありがとうございました。
外山:日本の医療制度は素晴らしいところがありますが、まだまだ多くの欠点を抱えています。その足りないところを補い、日本の医療の新しい形を築いていければと思います。そのご期待に応えられるよう、今後もいっそう努力していきたいと思います。こちらこそありがとうございました。
(プロフィール) 徳田瞳(とくだ・ひとみ) 経済団体 日本経営者同友会 代表理事 NGO 国連友好協会 代表理事 在東京ブータン王国 名誉総領事 |
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